株式会社
サイバー・コミュニケーションズ
代表取締役社長

※役職等は収録当時のものです

新澤 明男さん

G プレス | 2016年5月16日
GPRESS vol137 ビッグデータをどう使うか 進化し続けるアドテクノロジー

ビッグデータをどう使うか 進化し続けるアドテクノロジー

インターネットという世界で広告のテクノロジーは進化し続けており、特にビッグデータを活用したマーケティングに大きな注目が集まっている。日本初のインターネット専門広告代理店として設立された「株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)」代表取締役社長の新澤明男さんに、最新動向を語ってもらいました。

Vol.137 / 2015 . September より
新澤 明男さん

株式会社
サイバー・コミュニケーションズ
代表取締役社長

にいざわ あきお 1973年千葉県生まれ。ソフトバンクを経て、98年にCCI 入社。営業担当としてインターネット広告黎明期の市場拡大に貢献した後、2005 年から新事業推進本部長として、クロスメディア型のeコマースやCGM 系ソリューション開発などの新たなビジネスモデル構築を担当。その後、メディア本部長などを歴任し、07年に最高執行責任者(COO)、10 年に代表取締役副社長、13 年に代表取締役社長に就任。

CCIとは。

 CCIは、日本で最初にインターネット専門の広告会社として生まれました。当時は、ソフトバンクと電通のジョイントベンチャーという形でスタートしまして、ヤフージャパンの立ち上げから、広告の商品の開発・販売をしてきました。

インターネット広告の現状は。

 「ビッグデータで変わるインターネット広告の活用」ということですが、インターネットユーザーの分析ができるDMP(データマネジメントプラットフォーム)というものが、いまインターネット広告業界で注目されています。まずインターネット広告市場の推移を見ると、2014年に1兆円を超え、テレビに次ぐ第2のメディアに成長しました。しかし中身を見ると大きな変化が起きています。12年以前は、PC、モバイルのインターネット広告、検索の連動型広告といったデバイスごとに費用を計測していましたが、計測方法を変え、デバイスごとではなく実際に広告の買い付け手法ごとによる調査を行いました。するとウェブサイトの広告枠を買う「枠売り広告(予約型広告)」から、ネットワーク広告などの「運用型広告」が急速に数字を伸ばし、インターネット広告の主流になりつつあります。

「枠売り型広告」と「運用型広告」の違いは。

 数年前までの主流は枠売り型広告でした。広告主は、広告を配信する期間、どれぐらいの量を出したいのかを事前に予約してそのメディアの広告枠を買う。広告単価は初めから固定され、実際の広告の掲載までのやり取りは、媒体社と広告主が取引を行うという、いわゆる通常のマスメディアの広告取引と近いのが主流でした。しかし、それが「運用型広告」に移行してきています。 「運用型広告」は、株の金融取引市場というようなイメージをしてください。売りたい側と買いたい側が株の証券取引所を通じて株のやり取りをするといったことと同じように、広告を売りたい側と買いたい側がリアルタイムでつなぐ仕組みになっています。広告の買い付けはリアルタイムで行われ、それがオークション方式になっていますので、一番高い値をつけた人が広告枠を買えるマーケットになっています。

「運用型広告」のポイントは。

 「運用型広告」は、インターネット上で自動的に買い付けができるので、そのプラットフォームに複数の広告主や媒体社が、売り買いをリアルタイムで行うものです。広告効果は変動していくものなので、広告主はリアルタイムに広告のパフォーマンスをチェックしながら、広告の出し方をチューニングし、媒体社は広告の単価を見ながら収益を最大化していく必要があります。広告主が広告の最大化を図るために「DSP(デマンドサイドプラットフォーム)」を、媒体社が広告枠の販売や収益が最大化するために「SSP(サプライサイドプラットフォーム)」を使って、チューニングをしていくんですが、こうしたさまざまなアドテクノロジーが生まれてきています。【運用型広告が成長して変化することは。

 ポータルサイトのトップページの広告枠を買うという手法より、ユーザーに広告を当てにいくのかが重要になっています。私たちの業界では〝枠〞から〝人〞へとよく言われています。つまり、(ユーザーを)ターゲティングして、どの人に広告を当てにいくのかが今まで以上にインターネット市場で起きている事象です。

ユーザーをターゲティングするには。

 まずユーザーを特定させる必要があります。そのためにビッグデータを分析しないといけません。自分が、ターゲットとする人がどういう場所にいて、どのような人物なのか、インターネットでさまざまな動きをしている人のデータを、ビッグデータの中から探さないといけません。そして、探した上で可視化してどう活用するのか、それを考えるのがDMPというわけです。 DMPには、さまざまなデータが蓄積できます。自社サイトのデータ、顧客データ。さらに、他社のデータをお借りして分析することもできます。インターネットだけではなく、オフラインの購読者データなどをデータ化して蓄えることも可能です。 DMPで自分が広告を当てたいユーザーを可視化した後に、そのユーザーに対して広告効果を上げるDSPを使いながら、広告を当てることもできますし、(可視化したユーザーの)データをベースに自社サイトをもっと使いやすくするなどの改善に活用することもできます。さらに、ロイヤルティーを高めるためにそのユーザーにメルマガを配信したり、コンテンツをユーザーごとに変えていくということも可能になります。 DMPを活用事例ですが、ある番組の関連データをDMPに格納します。その番組のサイトに来てくれた関心の高いユーザーを抽出します。そして抽出したユーザーが、ほかのサイトに行ったときに、そのユーザーが番組のサイトに来たことがあれば、番組に関連したDVDだったり、オンデマンドのコンテンツを紹介します。番組に興味がない人には、別の広告を配信するということをやっています。 例えば、CCIが保有しているDMPデータは、月間約1億ユニークブラウザのデータがあります。そこにIPGのGガイドモバイルのデータを組み合わせることによって、自社のサイトやそれ以外にどういう行動をしているのか、ユーザーを可視化せることができます。さらに各放送局が持っているデータも組み合わせますと、より高度な広告配信が可能になると考えます。

データ活用のために必要なものは。

 インターネット広告は非常に複雑化してきています。そこで重要なのは、やはりデータですが、媒体社がすべて自力でチューニングするのは、現実的に不可能でしょう。代理店や事業者の力を借り、保有しているユーザーデータをいかに磨いていくのかということに尽きます。どんな人が番組を見ているのか、どのような人にどんな宣伝をするのが効果的なのか、そしてその人たちはどこにいるのか。DMPのようなものを使って、ユーザーデータの質を高めていく必要性があると思います。

テクノロジーの進化に対応するには。

 今後も、さまざまなアドテクノロジーが進化していくと思います。現在はインターネットが中心ですが、欧米では既存のマスメディアをベースにしたアドテクノロジーも急速に普及しています。自社のデータをいろいろなものとつなげることによって、より効果の高い手法を探していかないといけません。相乗効果の高いメディアを活用し、最適化していくことが重要ですが、テクノロジーは進化していく中で、それをどう活用するのかは人です。最新のテクノロジーを使って、人間がきちんとチューニングをしていけるか、結局はそこが重要になっていると思います。

文・写真 猪狩淳一