• シェイク!Vol.5 長く愛されるコンテンツとは?(1)<br>藤村忠寿(水曜どうでしょう)×佐藤尚之(さとなお)×林雄司(デイリーポータルZ)

シェイク!Vol.5 長く愛されるコンテンツとは?(1)
藤村忠寿(水曜どうでしょう)×佐藤尚之(さとなお)×林雄司(デイリーポータルZ)

 異なる業種で活躍する3人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。第5回は、北海道テレビ放送株式会社で人気番組『水曜どうでしょう』のチーフ・ディレクターを務める藤村忠寿さん、インターネット初期の1995年から『www.さとなお.com』を立ち上げ、現在は株式会社ツナグでコミュニケーション・ディレクターとして活躍する佐藤尚之(さとなお)さん、1996年から個人でサイト制作を始めは2002年からニフティ株式会社でデイリーポータルZウェブマスターをされている林雄司さんが登場。「長く愛されるコンテンツとは?」をテーマに話し合った。今回はその模様を全4回シリーズでお届けする。

まずは自己紹介から

藤村

まずは自己紹介からしましょう。私は北海道テレビで1996年から2002年までの6年間続いた(現在は3,4年に一度放送)『水曜どうでしょう』という番組にチーフディレクターとして立ち上げから携わりました。その後、2003年からはDVDを出してまして10月26日に26枚目を販売します。最近特に有名になりました大泉洋という俳優が大学生の頃からやっておりまして、彼が有名になるにつれてそのおこぼれに預かっています(笑) 藤村と申します。よろしくお願いいたします。

ニフティで『デイリーポータルZ』というサイトを作っております。10月7日にちょうど14周年で15年目に入りました。『デイリーポータルZ』の「ポータル」というのは冗談でつけただけで、実際にやっている事は「納豆を一万回混ぜる」とか「多摩川を挟んでテレビのチャンネルを変える」とかそういったことを14年、『デイリーポータルZ』の前の『東京トイレマップ』『Webやぎの目』を合わせると20年やっていることになります。よろしくお願いします。

佐藤

僕はこの中ではちょっと異色で、おふたりみたいな超面白コンテンツを作っているわけではないんです。電通でクリエイティブディレクターとして2011年まで働いていましたが、個人では1995年に『www.さとなお. com』というサイトを立ち上げました。1995年というのは個人サイトが100ぐらいしかないという頃でして、その頃から今でも続けている個人サイトとしては日本最古のひとつかなと思います。96年には『www.さとなお. com』の中にあったうどんのコンテンツを『うまひゃひゃひゃさぬきうどん』という本にしています。一般には広告の人と思われてますが、昔は「うどんの人」であり「食の人」だったんですね。 いままでうどんの本や沖縄の本、旅の本※など、本業の本を含めると15冊ほど出しました。現在はフリーランスとして仕事をしています。どうぞよろしくお願いいたします

※『胃袋で感じた沖縄』、『極楽おいしい二泊三日』など

20年前のインターネットって?

藤村

今日のテーマは「コンテンツが長く愛され続けるためには?」。まず、さとなおさんにお聞きしたいんですけど、95年に『www.さとなお. com』を立ち上げてますね。林さんが『Webやぎの目』を始めたのが96年。僕が『水曜どうでしょう』のサイトを作ったのが98年。ここにいる3人はちょうどインターネットを始めて20年くらいになるわけですが、当時、さとなおさんの周囲の方は個人のサイトを立ち上げたりはしていなかったんですか?

佐藤

全然やっていませんでしたね。当時、コピーライターとかクリエイティブの人たちは個人発信するっていう発想はなかったんですよね。「俺達は書くことでお金をもらっているのになぜタダで書いてるんだ?」みたいな。

藤村

でもそれなら、さとなおさんは何でやっていたの?

佐藤

読者から直接メールなどの反応が届くのが面白かったからですかねぇ。電通ではクライアントの広告をマスメディアに出す仕事だったわけですが、マスメディアの向こうにいる生活者の顔や反応はなかなか見えないですよね。でも、インターネットは違います。自分の個人的な生活のことを書くと、みんなの反応がバーっと返ってくるわけです。いまでは当たり前のことですが、当時は個人発信の手段がなかったので、それがすごく新鮮な感覚だったんですね。本や雑誌だったら編集部経由でハガキが送られてくることはありましたけど、直接メールで反応が作者に届くなんてことはなかったわけです。正直びっくりしました。「これは有史以来初めてのことだぞ」と思って鳥肌が立ったんです。そこからはもう病みつきになってずっと続けています。

藤村

林さんは何で始めたの?

友達がいなかったんですよ(笑) 面白いことを思いついても言う相手がいない。一緒に言ってくれる人もいないので、始めた理由は自分が面白いと思ったことを人に言えるぞってことですね。

藤村

ぼくが『水曜どうでしょう』のサイトを始めた理由は視聴者の声を聞きたいということでした。視聴者が「面白い」と言ってくれているのは聞くけども実際どこが面白いと思ったのか? こっちの真意が通じているのか? と思っていたのでサイトを始める前は、ロケで出張するときにはプレゼントを必ず買って「プレゼントがほしい方は番組の感想を書いてこちらに送ってください」ということをやっていました。

佐藤

物で釣っていたんですね(笑)

藤村

そうです(笑) こっちはもともと感想、それも批判とかじゃなくてどれだけ褒めてくれるかみたいなことを知りたかった。そうやっているうちに、『水曜どうでしょう』のことを好きな人たちが感想を言い合っている個人サイトを見つけたんですよ。たしか見つけたのは97年か98年かな。すると当然、僕も会社のパソコンを使ってそこに書き込むじゃないですか。自己紹介した上で書き込んでいたりすると、「藤村さんがいるんだ」って気づいてくれてコメントが集まってきたんです。「これ、いいなあ」って思ってそれなら会社でやった方が良いので公式サイトを作りました。

佐藤

公式サイトにBBSがあったるってことですか?

藤村

そうです。当時はBBSに書き込まれたコメントに対して全部自分で直接返信していました。「私、今日誕生日なんです」ってコメントに対して「おめでとう」って10件ぐらい毎日返すみたいなことですね。

そういうことをやっていて思ったのが「インターネットが全世界に広がるんだ」みたいなことが言われていますが、実際は世界になんか広がらないですよってこと。むしろ、狭くなっていくんです。

例えば、『www.さとなお. com』と同じなんですが、『水曜どうでしょう』も公式サイトなのに番組の話なんてあまり書かないで自分たちの日常のことばかり書いていました。「今日は天気が晴れで」とか「今日は何時に会社に来ました」とかそういうこと。あの当時のサイトは作ったら作りっぱなしで全然動いてないものがほとんだったんですが、嬉野さん(『水曜どうでしょう』のディレクター)が「なんでもいいから毎日書きましょう。とにかく動いているっていうことが人を惹きつけるポイントだ」と言ってくれたんですよ。

たぶんそういう感じからインターネットの世界っていうのは始まっていったんじゃないのかと思うんです。 

佐藤

インターネットは全世界と直接つながっているという感覚というか幻想みたいなものがありますが、実は個人個人のつながりなんですよね。そしてその個人個人から反応が返ってくる。そういうつながりの向こう側に全世界が広がっているんですよね。

「続けるコツは社内でうまくやること?」へつづく

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