G プレス | 2017年3月15日
Gプレス シェイク! Vol.7 記事 (3)

シェイク!Vol.7 「2017年 これからテレビはどうなっていく?」
藤井琢倫( AbemaTV編成制作局長)
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野村和生(FOD事業執行責任者)
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遠藤諭(角川アスキー総研取締役主席研究員)

シリーズ3回目は、FODやAbemaTVの実態の話を踏まえ、出演者3名による現状とこれからの話が進んでいった。

Twitter分析から見えてくるもの

遠藤
ありがとうございます。お二方への質問の前に、僕の紹介もしておきます。僕は『月刊アスキー』というパソコン雑誌をずっとやっていてデジタル屋なんです。雑誌の後は調査研究やコンサルタントをやっておりまして、そこでスマホ以降のライフスタイル調査を2013年からやっております。テレビについては、ぼくのところ(角川アスキー総合研究所)で次世代テレビ検討会の事務局など取りまとめをやらせていただいておりましたし、テレビ系の調査の仕事もやってきました。

そこで、今日はTwitterの解析データを思ってきました。NTTデータさんから買ったTwitterの全量データと、角川の持っているコンテンツや役者のデータをを揉んで、全件直近30分までのエンタメに関するキーワードが入っているツイート数を出してきました。さらに、エム・データさんが持っているテレビのメタデータを組み合わせて分析をしています。ドラマ番組に関するツイート数ランキングですね。日本はTwitterが強いと言われていますが、その理由は国立情報学研究所の方などと話していると、地上波が強いからTwitterが強いということなんですね。ツイートの占有率を見ると分かります。

ほかにもいくつかありますが、今日おもしろいのはこのデータです。2016年後半にダンスでも話題となった某ドラマに関するツイート状況の表ですね。『逃げるは恥だが役に立つ』のことですけども(笑) この「逃げ恥」に関係している企業名や商品名のツイート数・ユーザー数を放送前と放送中で比べていますが、見てみると放送前と比べて放送中の数字が1000%を超えているものがあります。いままでこういう数字をなかったんですけども実際に数字を取ってみるとちゃんと態度変容が起きていることがわかりました。

AbemaTVはマスメディアになれるのか

遠藤
自己紹介もようやく終えまして、お二方に質問していきたいんですけども、先ほどのお二人の話で気になったことがあります。AbemaTVはリアルタイムじゃないですか。テレビの持っている同時間性というものをネットに持ってきたということで、いつでも観られるFODさんと対照的だと思ったんですけども、野村さんはAbemaTVについてどう思われました?


野村
2017年度に200億円をAbemaTVに投資するというニュースが出ています。たぶん藤田晋さんの中に「ここまでは行く」っていうラインがあると思っているんですけど、AbemaTVさんはどこまで頑張るんでしょうか?


藤井
社内であまり話したことがないので、何とも言えませんが、藤田がどこかで話していたのが「5〜10年のスパンで覚悟を決めてやる」ということでした。


野村
ちなみにコンテンツにいくらぐらいかけているんですか?


藤井
150億円くらいですね。オリジナルコンテンツにはそのうちの75億円くらいかけています。


野村
コンテンツにもいつまでも観られるストックコンテンツと時事性の高いフローコンテンツがありますが、バラエティ番組もフロー系の番組が多い気がするんです。でも、再視聴にフロー系は向かない。AbemaTVさんもストックコンテンツを増やしていくのでしょうか?


藤井
AbemaTVでもフロー系が多くて、ザッピングしている中で拾うのにはちょうど良いんですけど、検索してまで観ようっていう人はほとんどいないんです。そのため、4月以降はフローコンテンツは極力減らして、ストックコンテンツを増やしていくようにしようと思っています。


遠藤
AbemaTVについて、開局当初はテレビがスマホに引っ越してきたっていう勝手な想像をしていたんです。ただ、さきほど藤井さんがおっしゃっていた「コアな層に届けるトンガッたコンテンツをつくっていく」というのはネットの世界の動画に近いような気がしています。「テレビがスマホに引っ越した」というイメージとは逆のことをやっているように思うのですが、いかがでしょうか?


藤井
実は遠藤さんのおっしゃる通りです。はじめは様々なテレビ局の番組も揃えられるかと思っていたのですが結果的にできなかった。今のところキー局だとテレビ朝日さんとテレビ東京さんの番組しかありません。テレビをスマホに引越しさせることにはチャレンジしていきたいですが、今はコアな人たちが集まるドメインを取っていって地盤を固めていこうと思っています。



遠藤
ぼくはAbemaTVには、どうせテレビを名乗るならマスメディアになっていってほしいと思っています。テレビは20世紀最大のメディア。それが巻き起こしたことは本当にすごくて、AbemaTVにもそういう存在になって欲しい。でも、今はそうなっていないように見えます。皆が観るような番組を作ればいいのになんで30チャンネルも番組作ったんですか?


藤井
ネットでマスコンテンツをつくるのは難しいんです。例えば、AbemaTVでの同時接続数10万の番組があったとすると、この10万という数字はネットの世界ではすごいことなのです。が、それというのも、10万人から一度にアクセスが有るとサーバーに負荷がかかりすぎてサービスが落ちちゃうことがあるからです。ただ、数字だけ見ると10万人というのはマスコンテンツではないですよね。10万人というのはテレビの視聴率1%に該当するとされる視聴人数(約120万人)にも満たない数字なので。しかしながら、それぞれのジャンルに存在しているコアなファン10万人が集まるチャンネルが集合していれば、それがメディアの規模につながるのでは? と考えています。ひとつのコンテンツだけでネットの世界で同時接続100万人という数字は中々作れないので。


遠藤
その数字の感覚がよく分からないのですが。


野村
同時接続数1万でもネットでは凄い方ですね。FODで同時接続数が急に1万を超えたらサービスが落ちちゃう可能性もあります。もちろん、自社サーバーだけじゃなくクラウドサーバーを使えば落ちることを回避することはできますが落ちるときは落ちます。そにれもし自社サーバーだとしたらお金がすごいかかります。

広告売上の話をすると、同時接続数10万ってネットの世界ではすごいことなんですけど、広告主からするとテレビの感覚で視聴者数を見るので、そこのギャップを埋めるのも大変なことです。

地上波放送をネット配信が補完していく?

遠藤
では、藤井さんはFODについてどう思われましたか?


藤井
月額課金のユーザーが80万人いるというのはすごいことだなと思います。別にエロコンテンツが多いわけではないですよね?


野村
一部『VIRGINS~ハジメテに乱れる女たち~』という番組はありますが(笑)

社内で80万人という数字を評価していない人もいますが、どれだけそれが大変なことか。あの手この手で増やしてきました。自分がFODを担当し始めたときは会員数が2万人を切っていましたから。


藤井
会員数を伸ばすとしたらコンテンツの力が大きいと思うんですけど、「このコンテンツが一番伸びたな」というのがあったら教えてください。


野村
自分が担当する前の番組ですが、初期で言うと『メイちゃんの執事』(2009年1月〜3月に火曜9時から放送されたドラマ)です。それと『リッチマン、プアウーマン』(2012年7月〜9月に放送された月9ドラマ)。番組でFODの告知が入るとサービスが落ちるくらい人が来ました。入会受付が追い付かないくらいでしたね。


藤井
FODさんはフジテレビさんのメディアですが、ドラマでサイマル放送はもっとやらないんですか?


野村
個人的にはやった方が良いと思っています。ただ、サイマル配信の結果を測定する方法が確立されていないのが問題です。視聴率を基準に話が進むので視聴率に組み込めないとダメですね。プラスセブンの場合は別時間に観るから問題なく数字が取れるんですけどね。

サイマル配信用のCMを出したいとなると、大きな議論になると思います。CM枠を売るのかどうか。それに同時接続数も問題です。完全サイマル配信であれば、もしサービスが落ちてみんなが観れなくなっても付加サービスなのでそれほど問題ないですが、CM枠を別売りしていた場合は配信を保証しないといけなくなります。画質が悪くてネガティブイメージを持たれてしまうこともあるでしょう。そう考えると、サイマル配信用のCM枠を売るなら強固なインフラが必要だと思っています。

「シェイク!」Vol.7 2017年 これからテレビはどうなっていく?

  • 第1回:
  • 第2回:
  • 第3回:
    Twitter分析から見えてくるもの
  • 第4回: