G プレス | 2018年6月29日
SP対談  vol2片岡x土橋 1

昨今のアニメトレンド事情とこれからの話
[前編]

対談シリーズ企画の第二弾は、東芝映像ソリューションの片岡秀夫さんとNHKエンタープライズの土橋圭介さんのお二人に、アニメを軸に様々な話を幅広く伺いました。前中後編の全3回シリーズです。※この対談は4/19に収録しました。

Gプレスvol.163

ーー 今期、期待している作品について

片岡
今期のアニメで、これは面白そうという作品を教えてください?



土橋
そうですね、「ひそねとまそたん」は企画段階で噂を耳にしていました。去年スタジオカラーさんやドワンゴさんと組んで「龍の医者」というスペシャルアニメを作りました(2017年2月、BSとプレミアムで放送)。この作品には人がたくさん乗っている巨大な龍が登場するんですが、それは国を守る守護者のような存在で戦場に出向くんです。どうも、この「搭乗する龍」というのが「ひそねとまそたん」の設定と似ているらしいと聞いていたので、すごく気になっていました。今期一番楽しみですね。



片岡
注目作品ですよね。

片岡 秀夫:
東芝映像ソリューション株式会社 クラウド&データサービス推進室 室長 1963年 東京都新宿区生まれ。1987年 株式会社東芝に入社。広告部でテレビスポット発注からラジオCM制作、ビデオデッキ「ARENA」のメディア計画、効果測定、広告制作を担当。toshiba.co.jp の Web 立上げの後、DVD規格立上げとして Web 制作、オーサリングツール (シナリスト2) 開発支援、デモディスク企画・開発、DVD制作受注業務の後、世界初の HDD & DVD レコーダー (RD) の企画、ネットサービス立上げを経て、現業の TimeOn 「みるコレ」サービス、視聴データ部門を統括。数10本のアニメを毎週視聴しつつ、視聴データを分析した同人誌「アニメの見られ方」の作成にも携わる。


土橋
実際に見てみたら、「ひそねとまそたん」のドラゴンは航空自衛隊の隊員が乗るのがサイズ感も含めて、「龍の歯医者」の龍よりずっと現代兵器っぽいというのか戦闘機的な乗り物で全然違うのですが、設定とかなるほどなーと感心しました。


片岡
僕も一番推しなのは「ひそねとまそたん」です。このアニメのスタッフ陣は凄すぎですよね。このスタッフ陣が楽しみじゃない人がいたら、その人は、、、、


土橋
潜りだろっていう(笑)

土橋圭介:
株式会社NHKエンタープライズ 制作本部 番組開発 エグゼクティブ・プロデューサー。1969年長野県生まれ。1993年NHK入局。2004年からアニメーション番組の企画・制作・編成・購入など担当。宮﨑吾朗監督「山賊の娘ローニャ」(2014年、国際エミー賞子どもアニメーション部門最優秀賞受賞)、庵野秀明氏が率いるスタジオカラーと共同制作した「龍の歯医者」(2017年、上海テレビ祭最優秀アニメーション賞受賞)、マテル・クリエイションズとの国際共同制作による「ピングー in ザ・シティ」(2017年)、CLAMP原作の「カードキャプターさくら クリアカード編」(2018年)など手がける。2011年〜2015年に続き、2018年6月からNHKエンタープライズに2度目の出向中。
※対談時は、日本放送協会 編成局 展開戦略推進部 チーフ・プロデューサー


片岡
この凄すぎるスタッフ陣が組んで「ひそねとまそたん」をやろうっていうのが。PVを見た瞬間にこれは何かヤバいなと思いました。某局のアニメ制作のプロデューサーの方に聞いたら、その方もやっぱり今期はこれだよなと言っていました。「ひそねとまそたん」は大ヒットしないかも知れないけど、中ヒットは間違いないっていう作品ですよね。

土橋
この作品はすごくツボを付いてくる作品で、もう一週目からヤバイ感じがしていました。


片岡
見せ方がうまいですよね。今期他にもうまい作品が多くて、「ピアノの森」は背景がすごく凝っていますね。



土橋
ありがとうございます。


片岡
クオリティが高いなと思いました。でもキャラクターはわざとマンガに寄せる描き方で、上手く背景と手書きのキャラクターを描き分け、原作マンガの世界観・表情をアニメに違和感なく入れていると思います。このバランスの取り具合の妙がいいのと、あとピアノ演奏の音へのこだわりですね。



土橋
ピアノの音源は相当凝ってますね。



片岡
世界中からいい演奏をする人を探してきていますよね。



土橋
(ピアノの奏者は)登場キャラクターの出身国の人をそれぞれ起用してるんですよね。



片岡
演奏のこだわりが半端なくて。私は今期のおすすめ大人アニメのブログ (TimeOn) の中で、ここが見どころだと書いたのですが、期待通りいい感じですね。
レグザクラウドサービス 「TimeOn」おすすめ


インタビュアー
今期だと、おしりたんていは気になりましたね。

土橋
Eテレで5/3-5/5の連休に特番でとりあえず3本やるんですが、今年13本作って放送する予定です。いわゆる定曜定時で放送する枠がスグには見つからないので来年の定時化を目指して、今年は特集でやっています。



片岡
「おしりたんてい」のPVは見たんですけど、「やっぱりそうくるかー」と驚きましたね(笑)



土橋
最後のブゥーっと出てくる?“おなら”のように見えますが、あれは必殺技です。



片岡
おしりが顔なんだけど、すごいな怖いなと思いながら見ていたんですけど。



土橋
顔がおしりの形に似てますよね(苦笑)、あと(おしりたんていの)ライバルが怪盗Uというんですが、こちらも、とぐろを巻いたマスクをかぶってるんです。見た感じまるでアレですよね、おしりから出てくる(笑)


ーー アニメの視聴層とガンダム

片岡
40~50代くらいの世代だと、アニメを見るのに抵抗がある人が多いですね。だから、普段アニメを見ないような大人の人に「今のアニメは大人向けがすごいことになっている」と伝えても、「あれはオタクのもんだよね。」みたいな人たちが多いんです。表現手法がアニメなだけなのに、抵抗がある。そういう人たちにも、今の幅広いアニメに出会ってもらう必要があると思うのです。一方、若者はネットで情報を集めてきて、オシャレな人たちも含めて幅広い層がアニメイベントに来ています。普通の人たちがドラマもアニメも分け隔てなく、単純に作りの違いくらいに思って見ている感じがします。しかし、ある年齢から上の人たちは、アニメは子どもやオタクのものみたいな線引をしていて、そんなのを見る自分は恥ずかしいとか、そういうことを語ること自体をタブーにしている感じです。



土橋
完全にポジティブな方向に変わっているのは今の20代くらいからなんですかね?



片岡
そうですね。



土橋
僕は40代後半ですが、職場でも同年代は、本当は見ているのに、いい大人がアニメを見ていちゃいけない的な感じと言えばいいのか、見ていても積極的には言わなかったり。



片岡
それを隠しますよね。



土橋
そうですね。


インタビュアー
マンガとアニメでもその傾向はそれぞれ違うんですか?

片岡
マンガはまだ緩いんですけど、アニメは40代50代の人にとってあまりバレたくない、そういうことが好きだと思われたくない感じです。開き直っている人を除けば隠す方向ですね。30代がちょうどボーダーになります。

インタビュアー
ガンダム誕生前後みたいな感じですか?

土橋
でもガンダムは今年で40年目だから、前後だと40代後半~50代になりますよね。



片岡
ガンダムも「新機動戦記ガンダムW」あたりから女性が増えてきて、それから「機動戦士ガンダムSEED」・機動戦士ガンダムSEED DESTINY」で更に増加しました。「機動戦士ガンダム00」が今度10周年ですよね。「機動戦士ガンダム00」の女性人気もすごいと思います。



土橋
「新機動戦記ガンダムW」も女性人気高いですよね。ちょうどガンダムシリーズが始まって40年目というタイミングをとらえて、NHKでは「全ガンダム大投票」いまちょうど投票番組を5/5に向けて準備中なんです。



片岡
私は「機動戦士ガンダム00」に投票しました。



土橋
ありがとうございます。



片岡
私は L’Arc~en~Ciel が大好きで、「機動戦士ガンダム00」のオープニングに使われた「DAYBREAK’S BELL」がむちゃくちゃいい曲と思っているのですが、今回「機動戦士ガンダム00」のベスト盤1曲目がその曲になっていて、やっぱりそうなんだみたいな(笑)



土橋
「機動戦士ガンダムSEED」のT.M.Revolutionのオープニングもよかったですね。西川貴教さんには、かなりのアニメ通なので、昨年から何度かアニメ100年の特集番組に出ていただいたんですが、5/5の「全ガンダム大投票」にもゲストで出演していただきます。



片岡
西川さんは L’Arc~en~Ciel のペースの tetsuya さんと売れる前から友達だったと思います。もともと L’Arc~en~Ciel に入るかって話もあったらしいんですよ。あの辺は仲間ですね。NHK さんのガンダム特集も楽しみです。タイミング的にも40周年で仕掛けがいろいろありそうですし。スピンオフとかユニコーンの続編の話もありますよね。



土橋
宇宙世紀が続きます的な。(結果的に「機動戦士ガンダムNT」が劇場公開される)



片岡
「機動戦士ガンダムUC」はいい感じに当たったし、ユニコーンガンダムがお台場に立ちましたからね。


ーー NHKのアニメ番組は長く続く? NHKのアニメ戦略の秘密とは。

土橋
いろいろな気がしますけどね。そんなに長期番組ばかりではないですよ。



片岡
さっきNHKの大人系アニメを調べていて気になったのですが、土橋さんはいつごろからアニメのご担当されているんですか?



土橋
2004年からです。それまでは、他の番組をやってるプロデューサーが、アニメ「も」担当する感じで片手間でやっていたのを、室長以下6名のアニメだけをやる部署が2004年できたんですよ。その後、組織は2年ほどで無くなったのですが、編成局の中にアニメ専門のプロデューサーが2名残る形で吸収されて今に至ります。大半のアニメは編成局にいる僕らが担当してますが、「ミニアニメ」と呼んでる5分の幼児系アニメや「天才てれびくん」枠のアニメなど一部の作品は制作局という別のセクションが担当しています。あと、NHKのアニメを支えているのが、NHKエンタープライズというNHKのグループ会社で、ここにはアニメ番組を専門にやってるプロデューサーが12名います。NHKで放送するアニメの企画というのは、僕らと彼らとで協議しながら徐々に作品を絞り込んで、最終的に提案を上にあげていく感じですね。



片岡
エンディング・クレジットを見るとNHKエンタープライズの名前があまり見えない場合もあるんですが、裏側で入る感じですか?



土橋
裏に入ってるわけじゃないです(苦笑)。総合テレビ日曜日0時10分からの枠はNHKでいうと放送権購入の枠なんです。放送権購入の場合だと製作委員会が立ち上がったものに対して、NHKがそこから放送するための権利を許諾されて放送するので、制作・著作と出るのは作品の製作委員会なんです。○○パートナーズとか○○製作委員会というやつですね。NHKでは委員会の構成メンバーまで一々表示しないのでわからないのですが、NHKエンタープライズが委員会のメンバーになっているケースが多いです。



片岡
だから目につかないんですね。



土橋
そうです。ただ、4月からEテレでメジャーセカンドが始まりましたけど、ここはNHKエンタープライズがちゃんと出ていますよ(笑)この枠の作品は、放送権購入ではなくて、NHKが制作費を負担して作っています。NHKからは、グループの中でアニメのノウハウが蓄積されているNHKエンタープライズに発注して、エンタープライズのプロデューサーが作品の品質管理をしながら、アニメーションの制作スタジオと一緒に作っています。



片岡
一方、新作がそうやって仕掛けられていく横で、顕著なのは2013年くらいから人気作品を遡り「ラブライブ!」や「進撃の巨人」に「新世紀エヴァンゲリオン」、「涼宮ハルヒの憂鬱」に「響け!ユーフォニアム」と、割りと手堅い人気シリーズを取り入れられて再放送されるようになったんですね。その動きが足されたんでしょうか?



土橋
実はいろんな方に、最近のNHKって他局でやった作品を放送するようになりましたよね?とよく聞かれるんですけど最近の話じゃないんです。1980年代後半に衛星放送が本格化しましたが、チャンネルが急に増えても制作能力が急には追いつかないから、結構な分量の映画や番組購入していたと聞きいてますが、当初からアニメも買っていたそうです。2004年に僕がアニメ担当するようになってからも「蟲師」「カウボーイビバップ」「巌窟王」「風人物語」など他局でやってからそんなに時間がたってない作品をやっていたんです。Eテレでも2012年に、京都アニメーションの「日常」をやってましたが、2016年に「ラブライブ!」をやったあたりから、目立つようになったんですかね。


ーー NHKと京都アニメーション。

片岡
NHKで京都アニメーション作品の放送は多いですよね?


土橋
多いですか(苦笑)?先ほど申し上げたとおり、最初はEテレの「日常」ですね。2016年にBSプレミアムで「けいおん!」去年は「涼宮ハルヒの憂鬱」「響け!ユーフォニアム」を放送しました。今度初めて京都アニメーションの新作「ツルネ」を秋から総合テレビでやります。ただそれぞれ違う文脈で成立に至ったので、作っているスタジオを実はそんなに意識してませんでしたが、クオリティの高い作品が多いスタジオですよね。僕がお付き合いするようになったのは「響け!ユーフォニアム」からです。



片岡
京都アニメーションは制作でお付き合いする最大の会社数が決まっていると聞きました。


土橋
その噂、僕も信じていたので、京都アニメーションさんに初めてお会いした際にお尋ねしたんですがそんなことないと否定してましたよ(苦笑)。かねてから京都アニメーションさんと組んで仕事がしたいなとは思っていましたが、「けいおん!」も「涼宮ハルヒの憂鬱」も、番組販売を担当してる会社を通じて買っていたので、直接の接点はなくて、ある日、会社の問い合わせのフォームに「NHKの土橋です。アニメを担当しています。今度お会いできませんか?」みたいなことでお問い合わせをしたら、社長さんから直々に返信をいただいて。最初は、企画の話というよりはNHKのアニメの状況を説明したり、アニメ業界の状況についてお話を伺ったりとかが多かったですね。何度かお会いして初めて企画の話をいただいたのが、すでに放送していた「響け!ユーフォニアム」の購入のお話でした。



片岡
これって(ユーフォニアムは)1本目のほうですよね。



土橋
はい、そうです。



片岡
劇場版は1と2があって、2は少し違う方向なんですよね。そして今度は「リズと青い鳥」という流れが作られてますね。



土橋
「リズと青い鳥」は拝見しました。


ーー 女性監督の進出。

片岡
最近の京都アニメーションは、幅広い層に届ける意図があって、結果的にアニヲタをはずしたプロモーションをしている感じがします。「リズと青い鳥」は特に、完全に一般の人たち向けの映画を目指して、わざとユーフォニアムの名前もビジュアルも外してやってますね。



土橋
これまでも、1作ごとに着実にステップアップしながら作品を発表していますが、本作の山田監督はこれまでとはまた違う次元というのか領域というのか、そういうところに入ったなという感じがありました。


片岡
そもそも京都アニメーションは「ヴァイオレットエバーガーデン」もとんでもないクオリティとこだわりで作っていて、この作品の監督は山田さんではないのですが、公開恋文の第五話はかなり泣けたので、この回特にすごいじゃん!と唸ってスタッフクレジットを見たら山田さん絵コンテだったという。



土橋
あの回の演出は素晴らしいですよね。



片岡
僕は「聲の形」も好きだし、山田監督のセンスとか演出へのこだわり方や音楽の使い方がすごく好きだし、日本のアニメの到達位置を伸ばしている一人だと大注目しています。



土橋
そうですね。「リズと青い鳥」で彼女(山田監督)は突き抜けた感じがすごくありました。



片岡
それで最近思っていたのが女性監督の活躍が目立ってきていませんかということなんです?



土橋
そうですね。



片岡
他にも「宇宙よりも遠い場所」のいしづかあつこさん。



土橋
いしづか監督すごく良かったですよね。いしづかさんの南極を舞台にやるってところも発想がすごく面白いなって思った。



片岡
彼女の劇場映画作品「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」がまるでヨーロッパの映画作家的なノリでスタートし、半分くらいまではヨーロッパ映画。それで後半はいわゆるバトルや萌えが加算されて両方において美味しい作品。ロングランしましたね。たしかどこかのサイトのアニメに限らない映画の満足度ランキングで、他の実写を押さえて1位になってましたよね。何だ!?っていうくらい評価が高くてびっくりしました。



土橋
ありましたね。同じ意見です。すごく女性監督はいい人が出てきています。



片岡
あと映画で岡田麿里監督が「さよならの朝に約束の花をかざろう」を撮りましたね。



土橋
さっきおっしゃった「ひそねとまそたん」も脚本が岡田麿里さんですよね。



片岡
はい。岡田麿里さんについては脚本・シリーズ構成として以前からファンなんですけど、「心が叫びたがっているんだ。」も含めて大好きです。



土橋
ついに監督ですからね。



片岡
彼女らの感性が素晴らしく、クオリティが高い作品が多いのは素晴らしいですね。あと「多田くんは恋をしない」は山崎みつえさんが監督ですね。


インタビュアー
今まではほとんど女性監督はいなかったってことですよね?

土橋
ほとんどではないんですけど、各話の演出や制作進行は女性も結構いらっしゃいますよね。ただ、監督として表に出てくるのは最近の傾向ですよね。



片岡
他にも「鹿楓堂よついろ日和」の神谷友美監督。吉田りさこ監督の「Lostorage conflated WIXOSS」、彼女たちの活躍は今後も注目ですね。女性監督の感性は、今後もアニメ表現の可能性を拡げてくれそうな気がします。結果として女性も入りやすいアニメになった。例えば「ダーリン・イン・ザ・フランキス」は個人的には大好きなんですけど前半で男性ファンを引きつけるための要素に寄ったので、女性ファンの裾野は広げにくいのではと心配しています。男性向けハーレム系バトルものはそれでいいのですが、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」みたいに男女両方を掴む作品はそこまでやると、女性ファンを失うんじゃないかと心配していたら、妻が途中からそういうのが鼻につくんでもうみないと言ってました。でも話が進んで行くとなんか随分良くなって面白そうじゃんと言ってます。たまたま私が見ているのでそういう感想も出ますが、一度見なくなったら戻ってきませんので、損だと思います。

インタビュアー
13話は良かったですよね。

片岡
良かったですよね。10話も、彼(ヒロ)が大人の都市で迷う辺りとか、いわゆる大人たちの世界を見て見聞を深めて自分たちの存在理由は何だ?みたいなものとか。13話の、研究施設で育てられた過去や鬼の過去とか。そういう回を見るとやっぱりいいねって。勿体無いですよね。きっと製作委員会的にいろいろ狙いがあったんでしょうね。



土橋
委員会のメンバーから、これを入れてほしいみたいなことですか?



片岡
こういう要素もああいう要素もあってそれぞれのファンにアピールしてより大きなボリュームがとりたいというのは一般的にあると思うのですが、かえってどちらもとり逃してコアな人たちだけになってしまう、ということがおきがちなのではと心配しています。プロデューサーたちのその辺の読みの難しさは半端ないと思うのですが、私としてはそれを視聴データも含めたデータ分析でお手伝いできたらなと。

ハリウッド映画は昔から日本でもこの手のデータドリブンな分析を精緻にやってるんですよね。過去の成功事例や失敗事例に共通する要素の抽出とか、この手のファンあの手のファンといった区別や規模間を実際にしていくようなアプローチです。そういったデータも見るとやっぱりこういう方向はありだねとかいうかたちで、失敗の確率を下げて成功の確率をあげるというようなことができたらと。



土橋
拡がるんじゃないかとか、ウケるんじゃないかとかね。


片岡
こういうシーンで繰り返し見た人は実はこんな番組が好きですというものは出しているんですけど。そうやって失敗を減らしていくのが面白いコンテンツをより多くの人に拡げるのにいいんじゃないかと思うのです。



土橋
僕は2011年から4年ほどNHKエンタープライズに出向していた際に、幾つかの作品で製作委員会立ち上げに携わりましたが、実は製作委員会のメンバーから脚本をこうして欲しいみたいなリクエストは無かったんですね。NHK向けの作品だと同じ委員会でも事情が違うのかなぁ・・・委員会のメンバーが何社もあって、いろんなことを注文してきて、だから製作委員会はよくないみたいな言われ方は、正直実感がないです。ただ、製作委員会がちょっと面倒だなと感じたのは、8社も10社もメンバーがいると契約の締結に時間がかかることですね(笑)。脚本会議に委員会の構成メンバー全社のプロデューサーが出てくるってまずないし、アフレコとか収録現場もだいたい初回だけですよね。挨拶程度に。作る側として調整ができなくて困ったってことは一度もないです。

インタビュアー
どちらかと言うと中身ではなく作品が始まる前や終わったあとのことが大変だってことですかね?

土橋
そうですね。あとは売り方だったりとか、どこに売っていいかみたいなところが、自社のライバル企業だからそこはダメみたいな話があったりとか、そういうのはありますよね。



片岡
最初に脚本や原作・体制を作るところは全部製作委員会メンバーで、とは限らないんですか?



土橋
僕の関わった作品では全く。委員会でも制作の工程に関わる会社とそうじゃないところがありますからね。原作がある場合は、版元さんからは監督やキャラクターデザインなど関わるスタッフについても注文が出るケースはありますね。



片岡
そうするとターゲットはどうなんですか?もうちょっと女性を狙いたいとか男性を狙いたいとかオタクじゃないとか。



土橋
最初のウィンドウ(作品の出口)や最大出資の会社の意見がやっぱり強いと思いますね。委員会側ではなくて、番組を放送する側の立場で言えば、NHKの場合は放送するチャンネルと放送する時間帯によってターゲットが違うので、それにあわせてどういう客層を狙って欲しいか監督や現場プロデューサーにリクエストする感じです。現状、総合は深夜の編成なので比較的大人向けに番組は出していきたいですし、Eテレの夕方枠(メジャーセカンドなど)だと、ローティーンぐらいがメイン視聴者の想定でやっていく感じですね。



片岡
「3月のライオン」はターゲット的には大人な感じですか?


土橋
そうですね。ハイティーンから20代、30代ぐらいを想定してました。一番見ていたのは20代30代。10代もけっこう見ていました。意外だったのは40代の男女がかなり多かったことです。


片岡
「3月のライオン」は主人公の3人姉妹が小さい子から大きな子までいますからね。制作がシャフトで新房さんが総監督。それで新房さんの得意分野が心理的な葛藤をスタイリッシュかつ記号的に描くことだと思ってますが、このアニメ化を見ていて、作り手の個性がもたらす方向性と、放送する側のとりたい方向性のバランスをとるのが難しそうと思ったんです。例えば、囲碁で悩む回が3話ぐらい続いたりして重いんですね。もともと原作もその要素がありますが、原作は柔らかいほんわか家族の癒やしの話とのバランスが絶妙なんですが、そのバランスが欝な方に倒れ過ぎると視聴者を失うのではないかと、第1期でも欝なシーンが何話か続いて非常に重かったんで、家族が視聴を離脱しちゃったんですよ。絵はキレイでクオリティも高いし、僕は心理学も好きなんで重いシーンも全然平気だったんですけど。でもあのほんわかを楽しみにしていた人たちは、その重い場面が続きすぎたのでもうダメと思ったのだと思います。難しいでしょうが、そういった要素の長さ、バランスの問題なんだと思います。



土橋
そうですか…第2期はいじめ問題が前半フォーカスされましたが、あそこは重かったですか?


片岡
私個人はあそこは重いというより、彼女 (ひなちゃん) の悩みは助けようとする大人だったり主人公レンくんの想いだったりがすごくいい感動ドラマになってると感じました。



土橋
実は2期に入ってから10代が来なくなったんですよ。20代〜40代は落ちてないのに。


片岡
なるほど、10代にとってそこはシリアスだったんですね。


土橋
そう、いじめが身の回りで実際に起きている当該の世代にとっては生々し過ぎて、見るには辛かったのかなぁと思ってみたり。原因はわからないんですが。


片岡
録画の視聴データを見ると、しんどい場面で早送りしている例があるんです。これはとあるSFアニメですが、主人公が病んじゃってベッドで苦悩してつぶやいているシーンなんかは飛ばされているんですね。だから結局テレビの中でまでしんどいシーンをずっと見たくないのかもしれません。同年代にとって身につまされるような場合、見るのがしんどい。


グラフ 1:「飛ばされがちなシーン」



土橋
主人公を巡る棋士の厳しい世界はありつつも、片や川本家のコミカルなやりとりや温もりのある風景が原作の特徴であり、そこは大事にしながら監督の新房さんが自らの作家性も出してやりきったと思っていて、バランスはうまく取れていたと思うんですが、難しいですね。



片岡
それはそれで良さなんで、そういう方向に行くのは監督や総監督の意思ではあると思うんですけど、よりお茶の間の人たちにあの作品を親しみ、最後まで見てもらうためには難しい問題ですよね。やっぱり任せた以上はその人の意思があっていいんだけど、一方でそれで視聴者を狭めるのも制作者の意思といえば意思だし、放送する側の意図としてどこまでバランスをとるかは難しい問題ですね。



土橋
そうですね。アニメの場合は会社の同僚相手じゃなく、外部の監督さんや脚本家さん相手に、こちらが目指すものを説きながら着地点を目指さなきゃいけないので、話し方1つとっても気を使います。みなさん作家として自負もありますし、実績もある方ばかりですからね。放送する側の理屈だけ並べても通じないです。



片岡
ある種そういう経験値からここまでは振りすぎないためにバランスをお願いしますねくらいまでは、最初に聞いていればいいけど、コンテ切ってチームを発注してしまった後で言われると、今からは無理となりますよね。


土橋
脚本をねる段階でいろいろ意見交換していきます。ここでこちらのリクエストが拒否されたり、あるいは十分に理解されない時もあります。そういう時は、コンテの段階で再び「やっぱりここは…」と繰り返しますし、後工程でも繰り返し話します。それでもやっぱり変わらないときは変わらないし、どうしても変えていただくときはある。僕の個人的なスタンスですけど、やっぱり相手は、作家でありクリエイターであるので、なるべく彼らのクリエイティビティや良さを出すという前提で、NHK的な論理を理解してもらえるのか?どうやったらハマっていくか?そこの媒介役を果たしたいと思っています。


片岡
それは良く分かります。今日、直接聞いてみたかった質問でした。踏み込んだ話なんですけど。ありがとうございます。